離婚覚悟で話し合い、夫の意識を改革。第二子出産後にフルタイム復帰を果たした女

このコラムは、育児と仕事の両立をする働くママのリアルな実話に基づく連載ストーリです。


「久しぶり!わー!もうお腹だいぶ大きいねー!」

数年ぶりに会う大学時代の同級生、綾は10年前から変わらぬ、屈託のない笑顔で近づいてきた。

都心の駅から5分程歩いたところにある綾の自宅に入ると、幼い男の子二人がいて、フルタイム勤務の夫婦の自宅とは思えないほど綺麗に片付いていた。梨沙は散らかったまま出てきた我が家の惨状を思い出し、少し憂鬱な気分になったのだった。

5歳と2歳の男の子兄弟を育てながら、フルタイムで働いている多忙な彼女とはタイミングが中々合わず、久しぶりの再開。いつもSNSではお互いに近況を目にするので、あまり久しぶりという感じはしなかった。

梨沙の第二子がどうやら男の子らしいと聞きつけた綾が、お下がりをもらってくれないか?と久しぶりに連絡をくれたのだった。

そんな今日は、お互い夫に子どもを預けて、久しぶりに大人だけでゆっくり話すことにした。ひとしきりお互いの近況や、子どものことなど話したあと、梨沙はずっと綾に聞きたかったことを尋ねた。

「二人育てながらフルタイムで働くのって大変だよね、綾の業界って結構忙しいってきくし。残業とか出張とかどうしてる?」

「一人目のときは時短で復帰したんだけどね、…。」

そこから始まる綾の話は、まさに今、梨沙自身が直面している悩みとほぼ同じだった。

時短勤務のため、フルタイムとは異なる評価軸。
成果ではなく時間で見られるので、給与は大幅にカット。
働く母親は多く、融通はきくけれど、働く母親に対しては低い期待値。
子煩悩だが平日の家事育児参加はほとんど期待できない夫。

もっと仕事に時間を費やしてスキルアップ、キャリアアップしたいけど、現実には育児と仕事の両立で精一杯でそこまで手が回らない。

「そこからどうやって、今のフルタイム勤務と二人育児の両立を実現したの?」

「まずは夫と離婚覚悟で話し合ったの」

梨沙の問いに対する綾の答えは、想像より重いものだった。

綾の夫は梨沙の夫と同じく、多忙で付き合いも多い。平日はもちろん、休みの日でさえも、仕事や付き合いのゴルフだと言って不在にすることが多かった。

一方で綾は時短で復帰後、平日の家事育児をほぼ一人で担うことになった。子どもが体調を崩して一週間登園できなかった時も、彼女がずっと休みを取って子どもを看ていた。

彼女がどうしても休めない状況のある時、

「もう有給も使い切ってるし、今日は大事なクライアントとの打ち合わせがあって、どうしても休めないの。今日だけでもなんとかお願いできない?」

と懇願したが、夫は自分が仕事を休むという選択肢は端からなく、

「実母か義母にお願いして」

と言い放ったので、遠方の母を頼らざるを得なかった。

出産前は、仕事に対するストイックな姿勢を尊敬していたし、そういう夫が好きだった。

夫も、結婚前は「仕事のことを話してるときのいきいきした綾が好き。結婚しても子どもを産んでも仕事は続けて欲しい」と言っていたのに…

実際には、専業主婦家庭で育った夫は「働いていても家事育児は女がするもの」「働きたくて働いているのになぜ俺に不満を言うんだ」という考えを根底に持っていることが言葉の端々から伝わってきた。

そうしたことが積み重なり、次男を出産後、溜まった不満と今後の不安がついに溢れてしまったのだという。

「このままの状態では、夫と夫婦でいる意味がわかならくなる、と思った。「離婚」という二文字が頭を過ぎった。」

でも、長男はパパが大好きだし、夫も家にいる時は子ども達をとてもかわいがっている。次男はまだ生まれたばかりだし、何より、綾も家族四人で過ごす時間を、とても心地よく幸せを感じていた。

「今までも事あるごとに、不満をぶつけてはいたけど、私も感情的になってたから、夫も喧嘩腰になってて、冷静に話し合えてなかったかもしれない。

冷静に、自分の思い、何が問題でどうしたいのか。そこで夫にはどうして欲しいのかを伝えて、それに対する夫の意見を聞いてみることにしたんだ。

もしそれでも全く夫の心に響かない、少しも受け入れてもらえないなら離婚になっても仕方ないかな、と思って。」

そこまでの覚悟を決めた冷静で真剣な綾の訴えに、夫も少しずつ変わっていったという。もちろん、夫の会社の職場環境の事情もあり、すぐに生活が一変したわけではなかった。

でも一番変わったのは、夫の意識だ。綾の仕事に対する思いをきちんと理解し、受け止めてくれた。

「第二子の育休復帰後はフルタイムで復帰したい」

という綾の希望を叶えるべく、家事育児の負担軽減方法を夫婦で真剣に話し合った。夫が担える部分はそれ程多くはなかったが、それでもこれまでよりずっと負担は軽減された。そしてアウトソース出来ることは外注したという。

「夫と二人で色々探して、実際に何度も試して、信頼できるシッターさんとヘルパーさんを見つけることができた事で、今はすごく助かってる。

私が出張に行く時なんかは、夫がしっかりシッターさんと連携してくれるし、安心して残業や出張もできるようになったよ。

夫の会社は男性の育児参加にまだまだ理解がないし、夫がすべてをカバーできるわけではないけど、「夫が私の思いを理解して尊重してくれてる」ってことが精神的にすごく支えになってるから、思い切って、自分の思いを伝えて良かったと思ってるよ。

そう語る綾の顔は晴れやかだった。

「もしシッターさんとかヘルパーさんに興味あるなら、今まで使ってみてよかった会社とか紹介するよ。でもこういうのは相性もあるから、復帰前の時間があるうちに色々な会社とか人を見てみて、梨沙や娘ちゃんたちにピッタリの人を何人か見つけるといいかも!

うちは男の子二人ですごく活発だから、シッターさんは、フリーのベビーシッターで保育士資格を持ってる若い男性によく来てもらってるよ。ヘルパーさんは、私が掃除嫌いだから、お掃除の得意な人に週1で来てもらってる。

最初は散らかった家を他人に掃除してもらうなんて…って思ってたけど、短時間でびっくりするくらい綺麗にしてくれるから、もうやめられないって感じ。」

綾は肩を竦め、

「実は今日も梨沙が来るってわかってたから、午前中にヘルパーさんに片付けとお掃除お願いしたんだよね。朝はもうぐちゃぐちゃで、とても人を呼べる状況じゃなかったんだから」

と、照れるように告白した。

「なんだ、そうだったんだー!綾のお家があんまり綺麗だから私自信なくしちゃったよー!ちょっと安心した。」と、梨沙が返して二人で笑った。

綾の家からの帰路につきながら、梨沙は、自分がこれからすべき事を思案していた。大きなお腹を抱えてはいたが、その足取りは心なしか行きよりも軽い様だった。


このエピソードは実話に基づいて作成しています。今後も、さまざまな産後に壁を乗り越えた働くママのエピソードを紹介していきます。